桃の節句とお茶のある生活

雛祭りとお茶のあるくらし お茶ガイド

女の子の健やかな成長を願う雛祭りの菓子が可愛らしいので、愛でながらティータイムを過ごしましょう。もともとは古代中国で厄除けの行事として生まれましたが、江戸時代には日本独自の人形を飾る文化まで発展しました。

ちょうど雛祭りの時期は木に花が咲く時期です。花見のシーズンに向けお菓子屋さんでは薄紅色の華やかななお菓子が豊富になります。花はいつの間にか梅の盛りから桜や桃の花の盛りに移ろいます。

お茶菓子に見る雛祭りの意匠

雛祭りに合わせて華やかなお菓子が多く作られます。モチーフがウィットに富んでいるものを紹介します。

蛤 はまぐり

雛祭りを象徴するモチーフとしてしばしば蛤が用いられます。蛤は日本各地に広く生息している2枚貝で、大きくツルツルとした貝殻が特徴です。白くぷりぷりとした食感の貝の中身は、上品な味わいで日本人の間で人気です。2枚合わせの貝殻はどちらも同じ形と模様をしていることから、契約の印、婚姻の祝い、薬入れ、貝合わせの遊びの道具として用いられてきました。高級品であることと、道具として用いられる雅な趣きからはまぐりは縁起物として重宝されてきました。

このお菓子のベースとなっている薯蕷饅頭は、シンプルな白色のお饅頭として食べられるポピュラーなお茶菓子です。シンプルな形を活かして蛤の形にし、おめでたい席にふさわしいお菓子になっています。油脂が使われていないので、白餡の甘さを煎茶でさっぱりと流すことができます。

桃 もも

雛祭りといば欠かせないのが桃です。こちらの和菓子は不老長寿の象徴「桃」を形取ったのが面白くて選びました。中国の伝説で仙女西王母の住まう園では三千年に一度桃が実り食べると不老長寿になると言われました。日本に伝わる昔話、桃から生まれた『桃太郎』にも通じる話ですが、桃は仙果として邪気を払うと言われています。見た目の可愛らしさもあり、桃の節句らしい華やかなお菓子です。

雛あられ

雛あられは米を炒り、豆を混ぜ砂糖をまぶしたお菓子です。食べやすさから彩り豊かに着色されたあられ餅が代わりに使われます。雛祭りに供える代表的なお菓子です。この写真のころころと可愛らしいあられは、見た目と甘さが雛祭りにぴったりです。

雛祭りについて

雛祭りの由来

雛祭りは古代の中国で水辺で禊をしたり、お酒を飲んで厄払いをしたことに由来します。禊が発展し、宮中では水辺のある庭園で酒を飲み、詩歌を読む曲水の宴(きょくすいのえん、きょくすいのうたげ)と呼ばれる行事になりました。

日本では次第に禊の慣習が、 自分自身を清める代わりに人形を水に流して行われるようになりました。そして室町時代には雛人形を飾り、菱餅やお酒を献げる雛祭りになりました。現代に通じる雛祭りに発展したのは、さらに後の江戸時代です。陰暦で桃の花咲く時期であり、女の子の成長と幸福を願う節句になりました。

狭山茶の地域での雛祭り

所沢市

埼玉県は雛人形やそのほかの節句人形の生産高が日本一です。雛祭りに欠かせない雛人形は分業で作られています。ひとつの工場で人形や装飾品の全てが作られる訳ではなく、頭部や胴体とパーツごとに担当する会社が決まっています。所沢市の雛人形は江戸時代後期に3軒の創業者によって発展しました。業者の数は減りましたが、現在も江戸時代からの伝統をつないでいます。

日高市の雛人形 長澤酒造

製茶機械を作った高林謙三の誕生の地の近くに、長澤酒蔵という日本酒を売る酒蔵があります。濁り酒が美味しいです。ここは古い酒蔵を多目的室にしていて、桃の節句の前には豪華絢爛な雛人形を飾っています。お酒を買いに来た方が気軽に観賞できるようになっていて、本当に気負わずに拝見できます。

大正から平成まで長澤家4代に渡る女性の雛人形は、それぞれ作られた時代を反映しています。酒蔵の仄暗いところに艶やかな人形等が鎮座しているのは圧巻です。酒蔵に雛人形が集まっていると雛祭りが災厄を払うためにお酒を飲んだという始まりを想起させます。

手前の丸っこい雛人形は昭和時代のもの。頭が大きく愛嬌がたっぷりです。酒樽の上に飾られているのも趣きがあります。また吊るし雛と呼ばれるモビールが空間に華やかさを足しています。

質実剛健な酒蔵の中に、実は宝箱の様に美しい人形や調度品が詰まっていることは知る人ぞ知る秘密にしておきたいものです。

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